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貴婦人の優雅な時間を彩り、
深い歓びに満ちた小さな芸術品
1900年頃 リモージュ
アール・ヌーヴォー期に多くの作品を残したアトリエL.Dの作品。
この工房は女性の肖像を得意とし、KPMやマイセンなどの高級磁器のモチーフにも数多く登場するイタリア人画家アンジェロ・アスティの絵画をもとに制作したものが見られます。小箱全体に繊細な絵付けが施されたこの作品にも、その画家の絵画を彷彿とさせる女性像が描かれています。
1900年頃 パリ
エンゲラン=アンリ=フレデリック・シュオー・ド・ラ・クロア(1840〜1914)作(推定)
大変珍しい変形スタイルの形状をしたエマーユ小箱。
エンゲラン=アンリ=フレデリック・シュオー・ド・ラ・クロアという作家のものと思われ、彼は様々なエマーユ技法を用いて多くの作品を生み出しています。
ベルエポック(古き良き時代)と呼ばれた19世紀末から20世紀初頭のエレガントなファッションに身を包んだ貴婦人たちが語らう姿が絵画的に描かれています。
語りかけるような優美な表情の、
華やかで透明な輝きあふれる魅力
1910年頃 リモージュ
エルンスト・ブランシェ(1855〜1935)作
ギリシャ神話で狩猟の神であり貞潔の女神であるアルテミスの姿を描いたエマーユ絵画。
黒色の釉薬を金属板の全面に施し、その上に白の釉薬で絵付けをして金彩を施すグリザイユ技法で制作され、見事な陰影や立体感で描かれた作品です。また、オリジナルフレームはアール・デコのデザインの彫刻が施されています。
1890〜1910年頃 パリ
ヨーロッパ美術では蝶の羽をもつ女性の姿は、エマーユをはじめブロンズ像など多くの芸術作品のモチーフとして用いられました。
この作品は、幻想的な泉のほとりで楽器を奏でる蝶の羽をもつ女性の姿と、その女性の身体を包むやわらかな布の表現描写が美しく描かれた作品です。
人間の手が創り出した宝石に込めた、
神秘的な個性とメッセージ
1890年頃 パリ
シルバー、K18金製
アルフレッド=マリー・ガルニエ(1848〜1908)作
エマーユの最高峰ともいえる素地に金を使用したゴールドエマーユを使用した作品。クリュという凹面にエマーユが施された凜々しい貴公子像が色鮮やかに描かれたブローチです。
1880年頃 パリ
シルバー、K18金製
中世ルネサンス時代の衣装を身にまとった女性像が描かれ、ゴシック様式やルネサンス様式を取り入れた大変重厚でクラシカルなデザインが施された存在感溢れるネックレスです。
1900年頃 パリ
K18金&シルバー製
当時の上流階級の貴婦人が使用していた携帯用の香水入れ。愛らしい天使がマンドリンを奏でる周りには小鳥や蝶、花が鮮やかに絵付けされています。
1900年頃 パリ
K18金製
ロケットペンダントに描かれた紫のパンジーを持つ少女の手は、「淡い恋で心がいっぱい」という意味を表現したメッセージ性溢れるデザインの作品です。
19世紀末、それまでになかった斬新で独創的な装飾様式が生まれました。
自然界、特に植物の持つ曲線をモチーフとし、それを大胆にデフォルメしたこの様式はフランスで「アール・ヌーヴォー ─新しい芸術─」と名付けられ、またたく間に全ヨーロッパ、そして世界へと波及していきました。そしてそれは絵画や彫刻などの芸術分野にとどまらず、宝飾品そして建築や家具など広汎にわたり取り込まれ、一大芸術運動として19世紀末から20世紀初頭の文化を席巻したのです。
あくまでも曲線の美しさにこだわったアール・ヌーヴォーの装飾様式は、フローラル(植物的)、フェマール(女性的)という表現で特徴づけられますが、それは人間の創り出す曲線とは異なった、自然界の生命力を感じさせる曲線です。当時、宝飾作家として活躍したルネ・ラリックをはじめガラス工芸作家エミール・ガレ、絵画のアルフォンス・ミュシャらの作品にその特徴を見ることが出来ます。
この時期につくられたエマーユ作品には流麗な線で描かれた女性像を主役として、自然主義というその原点から草花や実といった植物、そしてトンボ、蝶などの昆虫が象徴的に用いられ、それらの具象的表現は曲線を媒体として一体化させた表現として反映されています。
過去から現代に至る長い歴史の中には多くの様式が存在します。そしてそれぞれのピリオドには、特筆すべき意匠表現や創作技法が数多くあります。その中にあってアール・ヌーヴォーは、その表現手法、造形性、そして独創性などの観点より、優れた芸術様式のひとつであることは疑う余地もありません。
19世紀末に花開いたこの卓越した芸術文化は、現代においても多くの人々を魅了し続けています。
エマーユ七宝美術館では、アンティークエマーユのほかにアール・ヌーヴォー
期を中心としたジュエリーや美術品も展示しています。
アール・ヌーヴォー期を代表とするガラス作家エミール・ガレ、ドーム・ナンシーなどの花器やランプ。ブロンズはアメリカの踊り子を表現したフランソワ=ラウル・ラルシュの「ロイ・フラー」、レオナール、バリアスなど曲線美が美しい作品。
19世紀に制作されたカメオの数々。ストーンカメオとよばれるメノウ類の他にオパール、シェル、珊瑚が用いられています。天使のモチーフのカメオは、イタリアのベスビオス火山の溶岩でつくられたラーバカメオとよばれる希少なカメオです。